2011年02月18日

ジョン・ハート著 川は静かに流れ

ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』が面白かったため、購入。




●感想
アダム・チェイスは5年ぶりに地元ノース・カロライナ州ローワン郡ソーンズベリに帰ってきた。郡でも有数の富豪であるチェイス家の長男アダムは、5年前に殺人容疑で起訴され、無罪を勝ち取ったものの既に町にはいられなくなっていた。この町で育ち、母の死を経験し、すさんだ青春時代をすごし、恋人も得て、父ジェイコブの仕事も手伝っていたこの町を完全に消し去ろうとアダムはニューヨークへと移り住んだのだった。一度は捨てたと考えた地元への帰郷を決意させたのは、3週間前に急にかかってきた親友ダニーからの電話がきっかけだった。電話越しでは良い返事はしなかったものの、いつも自分の見方をしてくれていたダニーからの電話が彼の中で引っかかった。そのため、一度ダニーから話を聞こうと戻ってきたのだった。
お世辞にも変わったとはいえない街並み。しかし過ぎ去った5年の月日。さまざまなことに思いを馳せながら、アダムはダニーの家が経営するモーテルへと向かう。しかし、ダニーはモーテルにはいなかった。帰郷に対する期待と5年前の思い出に対する怒りからほとんど寝ずに、また10時間ものドライブで疲れていたアダムはダニーのモーテルで一休みすることとする。深い眠りに着いたアダムは、ドアをノックする大きな音で目が覚める。ダニーの父、ゼプロンが会いにきていたのだった。ゼブロンがアダムに投げかける言葉は5年前の事件を引きずったままの辛らつな言葉だった。そしてもう一つ、父へ対する誹謗だった。5年前と変わらないと思っていた町に、何かが起こっていた。

著者はジョン・ハート。アメリカ、ノースカロライナ州生まれ。大学を卒業後、銀行、証券ブローカー、法律家、ヘリコプターの操縦士、そしてイギリスのパブで働く。
2006年『キングの死』でMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀新人賞候補となり、2つ目の長編である本著『川は静かに流れ』で2008年の同賞最優秀長篇賞を受賞した。ミステリ界の新帝王と呼ばれる。

(以下、ネタバレ有り)ローワン郡には転機が訪れようとしていた。電力会社が新しい原子力発電所建設の第一候補地にローワン郡を選んだのだった。建設予定地となる土地は電力会社により市価の数倍の値段で買い取られると状況である。そのため、地元住民の中には環境擁護派もいれば地元の雇用促進のため建設賛成派に回るものもおり、そしてもちろん土地売買により手にするお金に目がくらんだものがいた。建設予定地にはチェイス家が代々受け継いでいたレッドリバー農場も含まれていた。しかし、父ジェイコブは土地の売却を断っていたのだった。予定地として計画された土地がすべて買収できない場合、電力会社は別の地域への建設を考えることとなる。ゼブロンは売却賛成派であるため、ジェイコブの判断を覆したい一心だった。
父へ対する誹謗の根拠を知らないまま、アダムはゼブロンを追い払った。昔はすぐに手を出す暴力的なゼブロンだったが、大人になった、そしてゼブロンよりもだいぶ若いアダムへはそうはしなかった。アダムはドアを閉めて再び眠りに落ちた。チェックアウトを済ませ、車に戻ろうとすると、ゼブロンが他2人のごろつきとともに立っていた。アダムが寝ている隙に、ゼブロンはアダムの車に「人殺し」の文字を刻んでいたのだった。怒りに燃えるアダムは、帰ってきて早々、喧嘩をすることとなる。だいぶやられながらもアダムはごろつき2人を痛めつけたが、ゼプロンは逃げていってしまった。アダムは意識を失い、救急車が呼ばれ、アダムは病院へと搬送される。
病室で目を覚ましたアダムは、昔の恋人ロビンと遭遇する。ロビンは巡査から刑事へと昇進していた。5年前に何もかも捨ててこの町を飛び出たアダムはロビンをも捨てていた。2人の間に奇妙な空気が流れるが、アダムはロビンから現在のこの町の状況(原子力発電所の建設)について聞かされることとなる。退院し、ロビンの家へと向かう2人。ロビンは昔と変わらない場所に住んでいた。部屋に入ると多少部屋が広くなったと感じたが、自分の荷物がなくなったからだった。自分がいた痕跡は写真だけ。少しだけ時間が昔に戻るが、ロビンがアダムの車を取りに行った間に、アダムはすっかり寝てしまった。
アダムが寝ている間、ロビンはチェイス家に行き、事の顛末を父ジェイコブに伝えていた。アダムは自宅を訪れる決心をし、いよいよ自宅へ向かうこととする。
5年ぶりの自宅へ戻ったアダムだったが、父は不在だった。また、継母ジャニス、義理の妹ミリアムも不在だった。いたのはすっかりたくましくなった義理の弟ジェイミーだった。ジェイミーと久しぶりの会話をし、その後、グレイスと会うこととする。グレイスは父の親友でチェイス家のレッドリバー農場で働くドルフの孫娘で、アダムとは本当の兄妹のように育った。捨てた故郷ではあるが、グレイスのことは気になって手紙も出していたが、返事はもらえなかった。5年ぶりに会ったグレイスは美しく成長していた。しかし、グレイスは自分を置いて出て行ったアダムを許そうとはしなかった。最後に一言、「殺してやりたいほど嫌い」と言い、グレイスは森の中へと駆け込んでいった。
アダムはロビンの家に戻り眠った。すると、ロビンが服を脱ぎシーツの間に入ってきた。意味はないと言いながら、5年分の時間をどうするのか決心するためのように。事が終わって、アダムとロビンは過去の話をし始めるが、ロビンが受けた代償も大きそうだった。ゆっくりと話をしようとした矢先、ロビンの携帯電話が鳴る。事件が発生していた。しかも、グレイスが何者かに襲われたのだった。

最後にグレイスと会ったのはアダムだった。5年前の嫌疑と同じように、アダムへ疑いが募る。


ラスト・チャイルド』で、この著者がミステリと共に家族のさまざまな問題を扱っていると紹介したが、本作も軸は家族間の問題に置かれていた。逞しい父ジェイコブ、アダムの前で拳銃自殺した母、ずっと昔から父の良き親友で仕事のパートナーであったドルフ、そしてそのドルフの孫娘グレイス、継母で5年前の裁判時にアダムを陥れる発言をし、いまだアダムへは近寄れないジャニス、すっかり逞しくなったがギャンブルに明け暮れる義理の弟ジェイミーと前以上に痩せこけた妹ミリアム。アダム自身は確かに母の自殺を目撃して以降、まじめな青年とはいえなかったが、長男としてチェイス家を継いでいく素養を持ち合わせていた。しかし、5年前に起こった事件で、たった1人の肉親である父は自分を信じてくれなかった。アダムにとっては、継母のジャニスや異母兄弟であるジェイミー、ミリアムと完全に分かち合うことはなくても良かったであろうが、母の思い出と共にいるはずの父から裏切られたことに、絶望を感じるのはもっともかもしれない。

また「人を信じること」の扱いは、アダム‐ジェイコブ間だけでなく、ドルフとジェイコブ、アダムとドルフ、アダムとロビン、アダムと友人ダニー等の間でそれぞれ確認され、これも本著のテーマの一つではないかと考えられた。ドルフに絆されながらも、相変わらず判断を誤ってしまう父ジェイコブをどのようにアダムが許していくのか、ダニーを信用できなかったアダムはその経験を父への容赦として反映していくのか、父子が昔の仲を取り戻して欲しいなと思いながら読んだ。感情と行動、そしてどんどん明らかになる事実にも、反目しようとする人間の傲慢さに集団の中に個人があるのではなく、個人が集まって集団ができるんだなと改めて感じた次第であった。

全体的に、ラスト・チャイルドほどではないが面白いと思えていたのだが、ただ、最終的な落としどころについては、あまりにも理想的過ぎるかな。


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/186496187

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。